UberとGrabを乗り比べて見えた現実――アメリカとシンガポールの収入・雇用・EV事情

アメリカ、ハリウッド景色 政治・ビジネス

先月、所用でアメリカとシンガポールに連続して行ってきました。移動手段としてアメリカではUber、シンガポールではGrabを利用しました。

どちらも目的地を入力すると、料金と到着予定時刻が表示され、車の位置をリアルタイムで確認できます。ドライバーに行き先を説明したり、料金を交渉したりする必要もなく便利です。

利用した結果、どちらのサービスも大きな違いはありません。しかし、ドライバーの働き方、社会保障、企業のビジネスモデルまで調べると、アメリカとシンガポールの違いが顕著に表れます。

この配車サービスはとても便利ですが、盲点も色々とありそうなので探ってみたいと思います。

アプリが解消した言語・地理・信用の壁

従来のタクシーでは、運転手が乗客から目的地を聞き、土地勘を頼りに走ることが重要でした。現在は目的地も経路もGPSに表示されます。料金は自動的に計算され、支払いもアプリで完了します。

UberやGrabでは乗車前に、運転手の名前、顔写真、評価、車種、ナンバーを確認できます。走行経路と決済記録も残るため、見知らぬ人の車に乗ることへの不安も軽減されました。この仕組みは利用者の利便性だけでなく、現地の言語や地理に詳しくない人がドライバーとして働くことも容易にしています。

シンガポール、チャンギ国際空港

ドイツでUberを利用した際、この変化を強く感じました。20年以上前に訪れたときはタクシーしか選択肢がなく、車種はほぼすべてメルセデス、運転手も全員がドイツ人(白人)でした。

今は外国にルーツを持つと思われる(特に中東系)ドライバーが多く、車もメルセデスやBMWではなく、トヨタのハイブリッドが多かったです。

これはドイツ全体の現象なのかわかりませんが、軽いショックを受けました。移動のルート、乗客とのコミュニケーションをアプリが補うことで、移民等が仕事に就く障壁が下がったことは確かでしょう。

ロサンゼルスではなぜテスラのUberが多い?

ロサンゼルスでは、テスラ(Tesla)をはじめとするEVやハイブリッドのUberに乗る機会が何度かありました。一般の自家用車より長い距離を走るUberドライバーにとって、ガソリン代や充電代は手取り収入を左右する重要な経費です。

自宅などで安く充電できれば、EVの1マイル(1.6 km)当たりの走行エネルギーコストはガソリン車より低くなります。オイル交換が不要で、日常的な整備項目が比較的少ないことも利点です。

この背景には、Uberとレンタカー大手のHertzがドライバー向けにテスラのレンタルプラン*を展開し、車両購入の初期負担を抑えてEVを利用できる環境を作ってきたことがあります。

さらに、カリフォルニア州は「クリーンマイルズ基準」により、UberやLyftなどの配車サービスに対して段階的なゼロエミッション化を求めています。2030年には走行距離の90%をEVで賄うことが目標です。

つまり、ロサンゼルスでテスラのUberが多かったのは、環境意識だけが理由ではなく、燃料費の優位性、Uberの導入支援、レンタル制度、州の規制が重なった結果なのです。

しかしEVなら必ず儲かるわけではありません。週単位のレンタル料、急速充電料金、充電中に営業できない時間、保険、タイヤ、事故時の修理費まで含める必要があります。自宅充電ができず、割高な急速充電に頼るドライバーは、期待したほど経費を削減できない可能性もあるそうです。

ロサンゼルスのUber向けHertzプラン:テスラ・モデル 3のレンタル料が週290ドル(約46,000円)、保証金が200ドル(約36,000円)、税・手数料を除けば約490ドル(82,000円)から仕事を始められる。保険、基本的なメンテナンス、Uberでの走行距離無制限も含まれる。

立場が異なるUberとGrabのドライバー

アメリカのUberドライバーは、一般的には会社員ではなく独立請負人です。働く曜日や時間を自分で選べる一方、車両、燃料、保険、修理、税金などの負担も原則として自分で管理します。通常の会社員のような有給休暇、企業の健康保険、安定した給与が保証されているわけではありません

シンガポールのGrabドライバーも通常の社員ではありませんが、2025年から「プラットフォーム労働者」という独自の区分が導入されました。対象者にはCPFと呼ばれる中央積立基金への拠出、労災補償、代表団体を通じて意見を表明する権利が段階的に整備されています。

これは、自由に働く個人事業主と、社会保障を受ける会社員の中間的な制度といえます。若いプラットフォーム労働者にはCPFの拠出増加が義務化されましたが、その分、現在受け取る現金が減る側面もあります。将来への備えと目先の手取りをどう両立させるかが課題です。

ちなみにUberとGrabを車種や車の年代で比較すると、圧倒的にアメリカのほうが新しく、綺麗な車が使われていました。シンガポールは車両購入権(Certificate of Entitlement)や車両代、税金など諸経費を合計すると、小型車でも2500万円ほどの初期費用が発生するのがその理由でしょう(陸上交通庁)。

会社は儲けているが、ドライバーは稼げてる?

Uberの2025年の売上高は約440億ドル(約7兆400億円)、営業利益は約56億ドル(約8,960億円)に達しました。年間の調整後EBITDAも約87億ドル(約1兆3,920億円)となり、赤字を出しながら市場を拡大していた時代から、利益を生み出す企業へと大きく変わっています。

Grabも2025年の売上高が約33.7億ドル(約5,392億円)に達し、創業以来初めて通期で約2億ドル(約320億円)の純利益を計上しました。Grabは配車だけでなく、フードデリバリー、決済、融資などを一つのアプリに集約しています。東南アジアの日常生活を支える「スーパーアプリ」であることが強みです。

Uberのドライバー、本職はモデルと俳優業

一方、ドライバーの暮らしも同じように豊かになるとは限りません。ドライバーの収入は、アプリ上の売上からプラットフォームの取り分、車両費、燃料・充電費、保険、税金を差し引く必要があります。さらに、乗客を待つ時間や充電時間も含めた実質時給で考えなければなりません。

収入は都市、時間帯、車種、勤務時間によって大きく変わります。そのため「Uberドライバーの平均時給」だけで待遇を判断するのは危険です。自由に働けるというメリットの裏側に、収入の不安定さと自己負担が存在します。

※2025年の民間調査によると、米国のUberドライバーの総収入は平均時給23.88米ドル(約3,821円)、週522米ドル(約8万3,520円)

アプリの利便性に騙されてはいけない

Uberはしばし訴訟の対象とされてきました。その中心は、ドライバーを「独立請負人」とする扱い、報酬、経費負担、社会保障、アルゴリズムによる報酬決定方法です。ドライバーが乗客を運ぶことで収益を得ているのに、彼らへの分配が少ないという問題です。

また、利用者もアプリの簡便性に騙されてはいけない、と感じることがあります。

ある時の領収書を見てみると、乗車料金26.64ドル(約4260円)に対し、迎車料金が12.30ドル(約2000円)、つまり約46%に相当する費用が加算されているのです。利用者が内訳や計算根拠を確認しにくい点に、アプリによる価格設定の不透明さを感じました。

一方、Grabで乗客が支払うプラットフォーム料金は通常1.20シンガポールドル(約150円)です。Grabでも需要に応じて運賃は上昇しますが、配車そのものに対する手数料は、アメリカのUberほど高額ではありませんでした。

企業はより多くの収益を得るために、アプリを活用して受益者の盲点を作り続けます。スマホで予約・決済は楽ですが、見えない支出を避けることが今後より難しくなるのだと思いました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考資料:

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