2025年6月、ロバート・F・ケネディJr. アメリカ保健福祉長官が、国際ワクチン支援団体GAVIへの資金提供を打ち切ると発表し、国際社会に大きな衝撃を与えました。
ベルギー・ブリュッセルで行われた「免疫による健康と繁栄」グローバルサミットにて、彼は「GAVIはワクチンの安全性という最も重要な問題を無視している」と厳しく非難しました。
この発言は、ケネディ長官が過去から主張してきた「ワクチン政策への懐疑」が、実際の国際政策に反映された形とも言えます。
今回の記事では、この発言の背景や影響、そしてGAVIの役割について、できるだけ中立的な視点から探ってみたいと思います。
GAVIとは何か?その実績と役割
GAVI:Global Alliance for Vaccines and Immunization(ワクチンと予防接種のための世界同盟)は、2000年に米英両政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などの協力によって設立されました。主にアフリカ・アジアの低所得国を対象に、子どもたちに予防接種の機会を提供することを目的としています。

これまでにGAVIは20億回分以上のワクチンを提供し、はしかやポリオなどの感染症から数千万の子どもたちの命を救ったとされています。新型コロナウイルスのパンデミック時には「COVAX」を通じてワクチンを公平に配布する役割も担いました。
イギリス医学誌『BMJ』に掲載された研究では、GAVIの活動によって乳児死亡率は約9%、5歳未満の死亡率は12%減少したと報告されています。
ケネディ長官の主張とその根拠
ケネディ長官は、GAVIが「ワクチンの副反応や長期的な安全性について科学的根拠を無視している」として、資金提供の即時停止を宣言しました。特に問題視しているのが、ジフテリア・破傷風・百日咳の三種混合ワクチン(DTP)に関する研究です。
Who else thinks Robert F. Kennedy Jr. needs to be protected at all costs from lunatic Democrats ? pic.twitter.com/8Xj8B7ENO1
— Tucker Carlson News (@TuckerCNews) July 11, 2025
彼は2017年に発表されたギニアビサウでの観察研究を根拠に、DTPワクチン接種を受けた子どもは、そうでない子どもよりも死亡率が高かったと主張しています。動画の中で彼はこの研究を「ワクチン研究の神々による歴史的報告」と形容しています。
しかし、この研究は1980年代の古いデータに基づいており、研究方法や統計解析に疑問の声も多く上がっています。さらに同じ研究者による2022年の新しい調査では、「死亡率に明確な差は見られなかった」と結論づけられています。
専門家と国際機関の反応
WHO(世界保健機関)やGAVIはすぐに反論を出し、「DTPワクチンは世界中で何十億人に接種されており、安全性は確立されている」との立場を明確にしました。

また、GAVIはすべてのワクチン選定をWHOの免疫戦略専門家グループ(SAGE)の勧告に基づいて行っており、「科学的根拠と透明性のある審査プロセスを重視している」としています。
多くの公衆衛生専門家は、ケネディ長官の主張を「誤情報に基づく政治的判断」と批判しています。
ビル・ゲイツへの不信感と背景
ケネディ長官は、過去の発言でもビル・ゲイツ財団に対して強い不信感を示しています。今年3月のDaystarのインタビューでも「特定の財団や製薬企業の影響力が過度に強い」とし、ワクチン政策における利権構造への疑念を表明しています。
🚨Bill Gates is panicking over RFK Jr. freezing all U.S. funding to GAVI.
— Died Suddenly (@DiedSuddenly_) June 29, 2025
He blames the Trump administration for causing a global health crisis. pic.twitter.com/vJyTQpqfLx
ビル・ゲイツはGAVIの最大支援者であり、パンデミック時のCOVAX推進にも多大な資金を提供しましたが、ケネディ長官はその「透明性の欠如」や「途上国の実情を無視した技術偏重」を批判しています。
こうした姿勢は、ワクチンの価値を否定しているというよりも、「公的制度と民間資本の癒着」に対する政治的メッセージとも読み取ることができます。
資金停止の影響と今後の懸念
米国はGAVIの予算の約13%を負担しており、2022年から2030年までに25億ドル(約3700億円)以上の拠出を予定していました。ケネディ長官の決定によって、その大部分が白紙になる可能性があります。
GAVIの推計では、米国の支援がなければ今後5年間で7,500万人分の定期ワクチン接種が実施されず、その結果約120万人が命を落とす可能性があるとされています(The Guardian)。
Since 2000, @gavi has helped get vaccines to 1.1 billion children. The U.S. announced that, after this year, it’s pulling out all its money. If that happens, Gavi estimates that 75 million children will miss vaccinations over the next five years—and of those, 1.2 million children… pic.twitter.com/S1hkx8QH73
— Bill Gates (@BillGates) July 3, 2025
GAVIは英国やゲイツ財団など他の資金源もありますが、大規模なキャンペーンや新規ワクチン導入の縮小は避けられないとの見方が強まっています。
国境なき医師団(MSF)も、「この決定は予防可能な病気で命を落とす子どもたちを増やす」として、深刻な懸念を表明しました。
中立的視点からの評価と信頼の再構築
ケネディ長官の発言や方針には、多くの論争と批判がついて回ります。しかしその根底には、「ワクチン政策の透明性を高め、国民の信頼を再構築したい」という問題提起であると考えられます。
彼はトランプ政権に入る以前から、長年にわたりアメリカ人、特に子どもの健康が危険に晒されていると訴えてきました。

数年前のパンデミックでは、世界中の人がワクチンを半ば強制的に接種させられ、目的を疑問視する声も高まっているのは確かです。
ワクチンの科学的な安全性や効果を冷静に評価するとともに、公衆衛生政策が誰の利益のために行われているのかを明らかにして欲しいと思います。
日本でも期限切れコロナワクチンの大量廃棄により、医療費の適正使用が問題になりましたね。
ケネディ長官の決定は、ワクチン政策のあり方や国際協力の信頼性に深く関わる問題です。単なる陰謀論か、正当な懸念の表明なのか。
イギリスのガーディアン紙は、専門家の指摘として「ケネディ氏は子どもの死に”個人的に”責任を問われる」と報じました。
犠牲者が出てからでは遅いので、政治的な対立軸やビジネスを抜きにした議論と判断が望まれています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
Source: NPR