ウォール街の現実:ゴールドマン・サックス出身女性が明かす金融業界の闇

ゴールドマンサックスに洗脳された私 エンタメと文化

ウォール街と聞くと、世界の金融を動かすエリートたちが集まる場所、というイメージを抱く人も多いでしょう。実際、ニューヨークのマンハッタンにあるこの金融街は、数百年にわたって世界経済の中枢として発展してきました。

しかし、その華やかな表の裏には、過酷な競争、終わりのない労働時間、そしていまだ根強く残る性差別や階級主義といった現実が存在します。

そのことを赤裸々に描いた、ジェイミー・フィオレ・ヒギンズ著『ゴールドマン・サックスに洗脳された私・金と差別のウォール街』を読み、その内容に衝撃を受けました。

ワークライフバランスなどとはほど遠い世界で、ビジネス小説というよりまるでメロドラマのような内容だったからです。

原題は「Bully Market・いじめっ子の相場」で、Bull Market(強気の相場)を文字っています。ウオール街について探ってみたいと思います。

ウォール街の文化とは何か?

ウォール街の起源は18世紀にさかのぼります。当時、ニューヨーク証券取引所の前身となる組織が誕生し、金融取引の中心地となりました。

ウオール街近くのチャージング・ブル像

現在では、J.P.モルガンやモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなど世界的な金融機関が集まり、年収数千万~数億円の世界が現実に存在する場所です。

インベストメントバンカーの2024年平均年収(WSO):

役職平均年収($1=145円で計算)
アナリスト1300万~2030万円
アソシエイト1885万~3190万円
副社長(VP)2610万~4205万円
上級副社長(SVP)3625万~6887万円
マネージングディレクター(MD)5800万~1億4500万円

ウォール街の文化を一言で言えば「成果至上主義」です。実力があれば誰でも上に行けるという建前のもと、実際には長時間労働と政治的な駆け引きがものを言う閉鎖的な世界です。

特に女性やマイノリティにとっては、昇進のチャンスすら限られていることも多く、理想とは程遠い現実が存在するようです。

ゴールドマン・サックスの内部告発が語るもの

ジェイミー・フィオレ・ヒギンズは、18年間ゴールドマン・サックスに勤め、退職後にこの暴露本を執筆しました。

彼女は組織内での女性差別、いじめ、ハラスメント、そして精神的な追い詰めに耐え続けてきた経験を綴っています。

たとえば、妊娠した女性社員が重要なプロジェクトから外されたり、子どもの行事に参加することを「忠誠心の欠如」と見なされたりするケースが頻発していたといいます。

また、男性上司からのセクハラやパワハラや、不快な身体的接触も日常的にあったとの証言もあります。彼女自身も、上司との不倫関係になった様子を告白しています😱。

彼女は自らも時にはその文化に染まり、「犠牲者であると同時に加害者でもあった」と自己反省を込めて書いています。

また、彼女は「18年間夫や子供、両親を犠牲にしてきた」と語っていますが、まさにその通りで途中で読むのが辛くなりました。

この物語は高給を稼ぐという大義と後ろめたさの葛藤の連続です。それが多くの読者を惹きつける理由でしょうが、同時によくここまで自身のプライバシーを晒せるものだと驚きました。

日本人が知らないアメリカ金融業界の裏側

日本ではアメリカはDEI(多様性・公平性・包摂性)が進んでいて、外資=男女平等でフラットというイメージがありますが、実際のアメリカ金融業界は極めてヒエラルキーが強く、無言の上下関係がはっきりと存在します。

デスクの配置、会議での発言順、さらにはランチで誰と食べるかまでが「格付け(昇進)」に影響するという証言もあります。

また、表面上は多様性を重視する姿勢を見せていても、実際女性や非白人のポジションの昇進比率は未だに低水準とのことです。

彼女は昇進し、年収が100万ドル(1億4500万円)を超えたのですが、それは部下の男性の年収より1ドルだけ高かったそうです。会社の男性尊重の姿勢がよくわかります。

ウォール街で生き残るためには、性別や人種以上に「忠誠」「沈黙」「自己犠牲」が求められるとのことです。読んでいて、これは昔の日本の体育会と一緒だと思いました。

また、酒席も重要な仕事であり、ストレスを紛らわすために強いアルコールへの依存度の高い人が多いのだろうと思いました。

「成功」とは何かを問い直すきっかけに

『ゴールドマン・サックスに洗脳された私』は、単なる暴露本ではありません。ウォール街という巨大なシステムが、いかにして個人の価値観や人生観を変えていくのかを疑似体験できます。

お金を稼ぐ=成功のために、どこまで自分と家庭を犠牲にするべきか?幸せとは何か?を考えさせられます。

この書籍で紹介されている内容は、決してゴールドマン・サックス一社に限った話ではありません。ウォール街という場所、ひいては競争社会そのものが持つ構造的な問題を映し出しているのだと思います。

これから投資銀行や金融業界を目指す若者、グローバルなキャリアに憧れる人にはお勧めの一冊です。


ジェイミーは後にCNBCのインタビューで、何度も限界に追い込まれながらも辞めなかった理由について「(労働者階級(実家)の家計を支えたいという思いや、移民である両親の期待に応えたいという動機があった」と説明しています。

退職後にウォール街の外の人々との会話を通じて、彼女が経験してきたことがどれほど衝撃的だったのかを自覚するようになったそうです。

新卒で投資銀行に入社し、まったく外の世界を知らずに18年間を過ごした。日本語タイトルにもあるように、まさに洗脳から我に返った状況ですが、お金と命が残ったというのは本当にラッキーな人だと思います。

そして彼女がもっと凄いのは、4人の子供の母親ということです!

最後までお読みいただきありがとうございました。

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