以前の記事でも触れましたが、アメリカは1人当たり医療費が突出して高いにもかかわらず、平均寿命は主要先進国の平均を大きく下回っています。
OECDによれば2023年のアメリカの医療費は1人当たり13,432ドル(約199万円)で、他の高所得国の約2倍規模です。CDCの最終データでは2023年の平均寿命は78.4歳で改善の兆しこそあるものの、依然として「高医療コスト・低成果」の状態が続いています。

MAHA(Make America Healthy Again)は、この“逆説”を是正するために、アメリカ人の食と健康を根本から立て直すための包括戦略です。(Health System Tracker)
9月4日の上院財政委員会の公聴会では、MAHAを率いるロバート・ケネディJr.長官やMAHA政策に対する民主党議員からの激しい追及が相次ぎました。その内容を基に、今後のMAHAの先行きを探ってみたいと思います。
いま何が起きているのか?MAHAとワクチン政策をめぐる対立
ケネディ長官は、食品・化学物質・薬剤・ワクチンなど子どもの健康を取り巻く要因を横断的に見直す「MAHAレポート」を今年5月に公表し、透明性と利益相反の排除を掲げています。
一方で、CDC人事やACIP(予防接種諮問委)体制見直しを含む大胆な改革は、政界・医療界から強い反発を招いています。

代表的な民主党議員としては、上院のバーニー・サンダース氏が社説で「科学を損なう」として辞任を要求。エリザベス・ウォーレン議員は、コロナワクチンが保険適応外になることを強く批判しました。
医療・科学団体の共同声明やHHS職員・OB1000人超の公開書簡も相次ぎ、辞任圧力は制度側からも強まっています。(AP News)
情報公開に対し強い疑念を持つケネディ長官
ケネディ長官は「接種を望む人のアクセスは確保しつつ、推奨・適応の根拠を“本当のデータ”で再点検する」と説明します。
具体的には、薬害監視や実臨床アウトカム、医療データ(RWD)の活用、COI(利益相反)開示の徹底など、審議プロセスの透明化を強調しています。

ケネディ長官は子どもの予防接種、COVID-19ワクチンなどの副作用でダメージを受けることをInjury(負傷、危害)と呼んでいます。CDCやFDAと製薬業界との癒着により、都合の悪いデータが隠蔽されているという強い疑念を持っています。
MAHAはワクチンだけでなく、超加工食品(UPF)や環境化学物質、広告規制の見直しまで射程に入れています。批判派は、助言体制の毀損や意思決定の政治介入を懸念しますが、ケネディ長官は「官僚制と業界癒着の清算」を正当化の根拠に据えています。(HHS.gov)
民主党の反論:アクセス・助言プロセス・専門家の見解
リベラル派の最大の論点、問題意識は以下の3点です。
- 接種アクセスの実務的混乱(保険償還、薬局の接種権限、学校のワクチン要件)
- 助言プロセスの独立性(CDCの予防接種諮問委の透明性と人事)
- 科学的合意の評価(安全性、エビデンスの質)
民主党・医療界は「推奨縮小や審議の遅れが現場の混乱や接種率低下を招く」と批判しています。小児科医ポール・オフィット氏は、ケネディ長官の主張に対する反駁を公開し、ワクチン有効性・安全性のエビデンスを再提示しました。

他方で、HHSの混乱を報じるJAMAの医療ニュースは「長官交代」論を支持しており、論戦は専門誌・大手メディアを巻き込んでいます。
一方、親と患者団体の側からは「コロナ期の不信の清算」「個別化医療の前進」を含め、MAHAの推進を期待する声もあります。
メディアの論点と報道
上院財政委での公聴会は、ケネディ長官と与野党の対立を鮮明にしました。批判側は「科学合意の崩壊」「CDC機能の弱体化」を追及し、支持側は「不透明な助言体制や利益相反の是正」「コロナ期の反省」を強調します。
メディア各社は、論点として以下の4ポイントをあげています。
- 接種アクセス:だれが・どこで・いくらで・いつ接種できるのか。保険(自己負担ゼロの条件)や薬局の運用、州ごとの学校要件の違い
- CDC人事:長官交代やACIP(予防接種諮問委)再編の妥当性。任命権、専門性の確保、利益相反(COI)の扱い
- 推奨の根拠:どのデータをどう重み付けて勧告を出すか(RCT・実臨床データ・安全性監視など)。評価枠組み自体の見直し
- 情報公開:議事録やデータ、COIの開示タイミング・範囲の適切性。審議の透明性をどう高めるか
重要な変化としては、「ワクチンの是非」だけでなく「統治(ガバナンス)」の設計・判断にも、国民の注目が集まっている点です。
⭐下の投稿はヘルスケア企業・団体から議員への献金リスト。サンダース氏は、34年間で約35憶円受け取りトップ。
Next time Elizabeth Warren or Bernie Sanders goes off on Kennedy, remind them of how much money they have received….. pic.twitter.com/NtWAumxHU5
— SparkyBru (@SparkyBru) September 8, 2025
つまり、誰がどのようなエビデンスを用い、どんな手続きで推奨・非推奨を決めるのか——そのルール作りが問われているということです。(ABC News)
この議論が行われること自体、MAHAが計り知れない力を持っていると言えます。今まで国民は、専門家の意見に黙って従うしかなかったのですから。
日本への影響と医療透明性への期待
MAHAはアメリカの内政課題に留まらず、多国のガイドラインや保険償還にも影響する可能性があります。
日本にとっては、(1)助言委員のCOI(利益相反)開示と審議プロセスの即時公開、(2)承認後安全性(RWD)と給付評価の一体運用、(3)超加工食品・環境化学物質・学校保健など“非ワクチン領域”の強化が、国民の信頼を高めると期待されます。
アメリカの“高医療コスト・低成果”の反省は、超高齢社会の日本においても他人事ではなく、医療費の拡大に伴う成果が問われて然るべきです。
医療は科学の積み重ねですが、制度設計とガバナンスの透明性がなければ、科学の信頼性に疑問符が付きます。(Health System Tracker)
最後までお読みいただきありがとうございました。