“郵便”の時代は終わった?シンガポールの郵便局が物流企業になった理由

シンガポールの中央郵便局 政治・ビジネス

はじめに:郵便局に“再生”の波

「郵便局=古い」というイメージを覆す変革が、東南アジアの小国・シンガポールで進行中です。

同国の郵便事業を担うSingapore Post(通称SingPost)は、2014年頃からeコマースの拡大を睨み、物流とデジタルに対応した「次世代型公共サービス」への変革を打ち出しています。

5月末に娘の留学するシンガポールに行き、東部Paya Lebar(パヤ・レバ)にある中央郵便局に行く機会がありました。そこには従来の郵便局のイメージを覆す斬新さがあり、驚かされました。

その背景に何があるのかを探ってみたいと思います。

なぜ“郵便”では足りなくなったのか?

郵便事業は世界的に大きな転換点を迎えています。電子メールやSNSの普及によって、手紙やはがきの需要は年々減少。代わって台頭しているのが、国際eコマースとその物流ニーズです。

SingPostも例外ではなく、従来の郵便配送業務だけでは成長が見込めない状況にありました。そこで同社は、ビジネスモデルを一新し、EC・ロジスティクス事業を中核とする再編に踏み切ったのです。

そして2014年、オーストラリアの宅配会社CouriersPleaseを買収し、eコマース物流事業への本格的な参入を果たしました。これにより、国内外での物流ネットワークを強化し、成長市場であるeコマース分野への対応力を高めたのです。

ブランドスローガンには「Delivering Beyond Boundaries(国境を越えて届ける)」を掲げ、郵便を超えた「物流プラットフォーム」としての役割を明確にしています。

郵便局って、こんなにカッコよくなれるの?

パヤ・レバにある中央郵便局を訪れた際、私がまず驚いたのはそのデザイン性でした。モダンなエントランス、白を基調とした壁、打ちっ放しの床、開放的な天井、洗練されたカウンターがダイナミックに配置されていました。

まるでホテルのロビーのような雰囲気で、従来の「無機質で閉鎖的な郵便局」のイメージとは一線を画していました。

シンガポールの中央郵便局エントランス
近代と歴史が融合する空間デザイン

外壁には「165年の歴史を誇るSingPost」を象徴するグラフィックと、多言語対応の案内サイン。セルフサービスの端末も多数設置されており、並ぶことなく荷物の発送や追跡が可能です。

さらに、隣接するモールと一体化しており、郵便局が「生活インフラ」として日常に溶け込んでいる点も印象的でした。とても2017年に展開されたとは思えないほど、モダンなデザインでした😍。

小さな国の大きな挑戦──物流企業としてのSingPost

SingPostは郵便事業からロジスティクス中心へと大きく舵を切っています。2024年度の売上は約19億シンガポールドル(約2,100億円)で、前年比約5%の成長を記録(Source:SingPost News Release)。

従業員数は約4,900人と少数精鋭で、効率的なオペレーションが特徴です。また、オーストラリアの「CouriersPlease」ブランドをはじめ、中国・米国でも物流拠点を構え、越境EC物流を支える国際ネットワークを構築しています。

日本郵政と比べてみる:規模ではなく“身軽さ”が武器

では、我が日本の郵便業界とどう違うのか、SingPostと日本郵政の基本データの比較です。

項目SingPost日本郵政グループ
売上(2024)約2,100億円約12兆円
従業員数約4,900人約40万人
主力事業ロジスティクス、EC支援郵便・金融・保険
海外展開積極的(豪・中・米)限定的(国内中心)

シンガポールは人口約592万人と、東京都より一層コンパクトな国です。単純比較はできませんがSingPostは、スピード感ある改革と柔軟な意思決定を武器に改革を続けています。

結論:郵便局の未来は「進化できるか」にかかっている

SingPostの試みは、「郵便局の意味そのものを再定義」です。グローバル化による市場拡大、デジタル化による効率化、顧客ベネフィットの向上──これらの要素を取り入れることで、郵便局は再び社会インフラとしての存在感を取り戻そうとしています。

モダンで使い勝手のよい作業テーブル

日本も少子高齢化や郵便離れが進む中で、旧来の枠組みに依存したままでいる余裕はありません。過去のしがらみや利権を排除し、戦略的な改革が必要であることは間違いありません。

SingPostの事例は、日本の郵便事業にとって「変わる勇気」のとても良いヒントになると思いました。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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