ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツは、2015年のシリア難民危機以降、移民政策をめぐって世界的に注目される存在となりました。
特にメルケル前首相が掲げた「私たちはやり遂げられる/Wir schaffen das」というスローガンは、歓迎文化の象徴とも言われました。しかし、その後の展開は一筋縄ではいかず、ポピュリズム政党への支持も高まっています。
この記事では、移民政策がドイツ社会に与えた影響、とりわけ治安や統合の問題を中心に探ってみたいと思います。
メルケルの決断とその波紋:市民はどう受け止めたか?
2015年、メルケル政権は戦争や迫害を逃れてきた難民の受け入れに踏み切り、1年で100万人以上がドイツに流入しました。

当初は人道的対応として多くの支持を集めましたが、急激な人口流入は行政サービスや地域社会に大きな負担をもたらしました。
特に旧東ドイツ地域では、「事前に十分な議論がなかった」「地元住民の声が無視された」との不満が強まり、移民に否定的な政党・AfD(ドイツのための選択肢)が急速に支持を伸ばしました。
法制度の限界と不法滞在者の増加:ドイツの統合政策の課題
ドイツでは、移民や難民の社会参加を促すために「移民統合法」や「熟練労働者移民法」などの法制度が整備されてきました。語学教育や職業訓練、住宅支援などが提供される一方で、制度の実効性には大きな課題が残っています。
特に統合支援のアクセス格差が顕著で、必要な書類が揃わない、登録手続きが煩雑、語学力が不十分といった理由で、多くの移民が支援から取り残されています。

また「熟練労働者移民法」は高スキル人材を対象としており、庇護希望者や技能のない移民は対象外とされるため、人道的受け入れと労働市場ニーズのバランスがとれていません。
加えて、不法滞在者の増加も問題となっています。連邦統計庁によると、2024年時点で推定22万人以上の不法滞在者が確認されており、退去命令を受けた人のうち約81%の17.8万人が実際には国外退去していないとされています。
これらは、出身国との送還協定の不備や人道的配慮、行方不明など複数の要因によるものです(OSW)。
こうした状況に対応するため、今後の改善案として以下のような提言が挙げられています:
- 退去命令の執行率向上のための国際協定整備
- 統合支援へのアクセス性向上(手続きの簡素化、多言語対応)
- 統合施策の義務化(語学教育や就労研修の履修を義務付け)
- 一元的な移民庁の設立により、庇護・就労・不法滞在を一括管理
- 地方自治体への予算支援と資源配分の適正化
制度上は整っているようでも、実際の教育・治安・住宅支援などの現場対応は地方自治体に委ねられており、特に旧東ドイツ地域では人的・財政的リソース不足が問題となっています。これが地域間での摩擦や移民の孤立、統合の遅れにつながっているのです。
数字で見るドイツの治安:外国人犯罪は本当に増えた?
連邦犯罪統計(PKS)によれば、外国籍の容疑者が占める割合は2021年に全体の約34%、2022年には37%、そして2023年には41%に達しました。とくに暴力犯罪や性犯罪における外国人比率が年々上昇している点が、世論の懸念を呼んでいます。
しかし、ここには重要な留意点があります。ドイツに住む外国人は若年男性が多く、統計的に犯罪に関与しやすい年齢層に偏っているため、数字が高く出る傾向があるそうです。

ifo研究所の分析では、移民が集中して住む都市部では全体の犯罪率が高い傾向があり、その影響で移民の関与が過剰に見えるとの指摘もあります。
さらに、居住地域の社会経済的条件(失業率、住宅密集度、警察配置など)も犯罪率に影響しているため、「移民比率と犯罪率に直接的な相関関係は見られない」と結論づけています。
※ifo研究所は、ドイツ政府やEUの委託研究も多く請け負う中立的な経済研究機関であり、党派的立場を持たずエビデンスベースの政策提言を行うことで知られる。
ポピュリズムの台頭とAfD、CDUの言説:右傾化するドイツ政治の背景
2015年以降、ドイツでは移民政策をきっかけにポピュリズム政党の支持が拡大しました。特に極右政党AfD(ドイツのための選択肢)は、難民の急増を「治安悪化」や「ドイツ文化の崩壊」と結び付けて支持を広げています。

AfDの支持基盤は、旧東ドイツ地域、地方都市、低所得層、教育水準が中〜低層の有権者に多いとされ、政治的エリート層への不満や将来への不安が支持の根底にあります(アメリカのトランプ氏支持層に類似)。
AfDは「EU離脱」「イスラム文化の排除」「環境政策への否定」など、既存政党とは一線を画す急進的な政策を掲げており、既成政党に対する反発票の受け皿としての側面も持っています。
一方、キリスト教民主同盟(CDU)の一部も選挙戦で移民批判を強めており、2024年の議会討論では「難民申請者の間で日常的に集団レイプが起きている」といった過激な表現も見られました。

国際的にも、AfDのようなポピュリズム政党の台頭は移民政策と密接に連動しており、「移民不安」が社会を分断し、政党地図を大きく塗り替える可能性を秘めています。
ドイツの連邦憲法擁護庁は5月、AfDを右翼過激派に指定しました。一部メンバーが過去に極右団体と関係を持っていたことや、ヘイトスピーチの発言歴があることから、監視対象とされたようです(BBC)。
日本の政治に求められるリーダーシップ
ドイツについてはifo研究所の報告の通り、移民による具体的な被害とデータ的な裏付けが確認できませんでした。移民=リスクという単純な話ではないのでしょうが、保守が訴える心理的なプレッシャーも理解できます。
日本でも少子高齢化を言い訳に、国民の知らないところで外国人労働者の受け入れが急速に進んでいます。ドイツの経験から学べる教訓は、「事前の合意形成」「制度の透明性」「長期的な共生戦略」の3点です。
これまでの日本政府のやり方だと、合意形成というプロセスもなく、更には隠密にいつの間にか議決されていた、が常套手段です。極めて不透明であり(真っ暗)、国民からの不信感も頂点に達しています。

ドイツの人口は約8410万人で、移民的背景を持つ人口はその25%(2120万人)強を占めます。日本に置き換えると、約3000万人の外国人・移民と生活することになります。現在日本に住む純粋な外国人の数は約340万人なので、10倍近くに増えるとなると大幅に景色が変わること間違いなしです。
今の自公の長老(石破氏含め)には、スピード感も問題解決能力もありません。参政党など若い政党・世代がリーダーシップを発揮し、国民を巻き込む議論を進めて欲しいと切に願います。
最後までお読みいただきありがとうございました。