歌手プリンスの死から学ぶ、フェンタニルという“見えない罠”

アーティスト・プリンスのアルバムジャケット 食事と健康

合成麻薬フェンタニルのアメリカへの密輸の経由地として、中国組織が日本に拠点を設けていることが明るみとなりました。

フェンタニルによる人間破壊力は想像を絶するものがあり、苦しむ人達をSNSでも目にする機会が増えました。アメリカではフェンタニルによる死者が、累計30万人超と推定されています。

薬物依存は貧富の差に関わらず、誰にでも起こりえることです。あのスーパースターもこれで世を去りました。

世界を驚愕させたプリンスの突然の死

2016年4月21日、世界的アーティスト、プリンス氏が自身の邸宅で倒れているのが発見されました。死因はフェンタニルによる偶発性中毒と断定されました。彼の死は、アメリカ社会に蔓延する“見えない薬の罠”を象徴する事件であると話題になりました。

フェンタニルはモルヒネの約50~100倍の強力な合成オピオイド(鎮痛剤)です。医療現場ではがん性疼痛などの治療に用いられる一方で、違法市場では偽ブランド薬などに混入された状態で流通し、識別困難な点で大きな脅威となっています。

この事件の核心は、複雑で見えない違法薬の供給ルートの存在、制度的な隙が見逃された点が指摘されています。製造過程や密輸ルートが不透明なフェンタニルは、処方箋を悪用した流出や、違法薬市場での混入によって広がり、正規医療ルートと違法経路の境界線が不明瞭とのことです。

プリンスの最期の前兆と心理的背景

数ヶ月前からプリンスは慢性的な疼痛に悩まされており、肝心のコンサートを延期するほど体調を崩していました 。4月14日にアトランタからの帰路で体調が急変し、機内で意識を失い、飛行機は緊急着陸し、イリノイ州の空港でナロキソン(中毒症状を反転させる薬剤)による蘇生処置を受けています。

その後、体調不良により医師の診察を受け、オキシコドン(鎮痛剤)などの処方を受けましたが、それは本人名義ではなく、ボディーガードの名義であったとされています( ABC News)。

心理的には、長年にわたる“完璧主義”や“自己管理型”のイメージを保ちつつ、薬の使用については周囲にも隠しながら、 内面的に孤立感や不安に苦しんでいたと思われます。Redditの投稿によると、中毒ではないものの、処方鎮痛剤を含む薬物への依存が進んでいたという証言もあります 。

友人や関係者は、彼が依存症専門医の診察を予約していた翌日に急死したと証言しています 。

事件の捜査と処方の検証

シュレンバーグ医師は2016年4月、プリンスの依頼により、マネージャー名義でオキシコドン(鎮痛剤)を処方しました (LA Times)。

その後、2018年にDEA(アメリカ麻薬取締局)による調査があり、同医師は薬物規制違反で30,000ドル(約450万円)の和解に応じていますが、刑事責任は問われていません

検察側は「偽薬を持ち込んだ人物も供給ルートも特定できず、起訴に至らなかった」と声明を発表しました 。

プリンスは、偽造ラベルの錠剤を自宅に複数保管していた事実などから、非合法な薬を意図せず摂取してしまった可能性が高いと推察されています(Vanityfair)。

フェンタニルの特性とその恐怖

フェンタニルは合法の医療用途がある合成オピオイド(鎮痛剤)ですが、違法製品は極めて危険です。極微量でも致死性があり、偽薬に混入された状態では、本人すら気付かず摂取してしまう可能性があります 。

米中、メキシコを含む薬物取締実績はあるものの、多くのフェンタニルは非合法なルートで流入し続けており、供給側の摘発が追いつかない状況です 。

プリンスの場合、処方薬と思っていた薬が実はフェンタニルにすり替えられていた可能性があり、彼は自分が何を摂取したのかを知らずに命を落としたとのです。

あれだけ才能があり頭脳明晰でも、情報の死角に気づかず命を落とすというのは恐ろしい社会だと思います。

アメリカのフェンタニルによる被害のいま

近年、米国ではフェンタニルを含む過剰摂取による死因が激増していましたが、2024年には大幅な減少傾向が見られています。

米CDCによると、2023年の合成オピオイド(主にフェンタニル)関連死は約73,800人でしたが、2024年には72,776人にわずかに減少しています (NIH)。

さらに、2024年10月から2025年9月の1年間では全ドラッグによる過剰摂取死が約87,000人となり、前年の114,000人から約27%減少しました( CDC)。特にフェンタニル関連の死者は37%も減少し、約48,422人にまで減少しています (CDC公表)。

この改善の背景には、ナロキソン(オピオイド過剰摂取時の逆転薬)の普及、ブプレノルフィンなどの治療薬へのアクセス向上、フェンタニル検査ツールの普及、地域レベルの痛みケアプログラムが奏功していると報告されています 。

まとめ

プリンス以外にも、マイケル・ジャクソン、トム・ペティ、マック・ミラーなど鎮痛剤を含む薬物の過剰摂取で亡くなった有名人は沢山います。

成功し続けるプレッシャーからの解放という理由は理解できますが、一番の問題は簡単に入手できてしまうシステムにあると思います。

米パーデューファーマは、オピオイド(鎮痛剤)の大規模供給者として提訴され、2025年6月現在、全米55州・準州との間で総額74億ドル(約10兆円超)の和解プランに合意しました(NPR)。その他、ジョンソン・エンド・ジョンソンを含む複数の企業が和解金の支払いに応じています。

Map: AP

彼らの死はフェンタニルの危険性と、依存症という病の深刻さを社会全体が考える契機となりましたが、時の経過とともに記憶から消去され、新たな被害者を生んでいるのが現状です。

日本はまだ被害規模は少ないですが、今後の中毒者増加を防ぐべく、政府にしっかり対策をして欲しいものです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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