日米関税合意は本当に成功か?アメリカが見抜いた“幻の投資”の正体

日米関税交渉・トランプ氏と握手する赤沢大臣 政治・ビジネス

2025年7月、トランプ前大統領が発表した日米の新たな関税合意が、日本国内では「歴史的成功」として報じられました。関税率が25%から15%に引き下げられ、日本の自動車株が急騰。

トヨタは15年ぶりの大幅上昇、ホンダは11%の上昇を記録するなど、市場も好意的に反応しました。

しかし、アメリカ側ではこの合意に対して冷ややかな見方が広がっています。報じられている「日本による5500億ドル(約80兆円)の投資」は、具体的な契約が存在せず、実現性に乏しいとの批判が相次いでいます。

この記事では、日米両国の評価のギャップに焦点を当て、この合意が本当に「成功」と言えるのかを探ります。

日本では「成功」報道、日経平均は一時42,000円台に

日本の主要メディアは、「関税が下がり、自動車株が上昇」「トランプ氏が対日強硬姿勢を和らげた」といった前向きな内容で報道しました。経済界でも安堵の声が上がり、一部では「対中関係の悪化に代わる日米経済連携の強化」と評価する論調も見られます。

ただし、5500億ドルという投資額の意味合いや、合意の法的拘束力について掘り下げた報道は少なく、政府関係者や経済人の楽観的なコメントをそのまま引用する内容が目立ちました。

アメリカでは「ディールですらない」との批判

一方、アメリカではこの「日米合意」をめぐって懐疑的な報道が続出しました。特に、NYUスターン校の教授で実業家でもあるスコット・ギャロウェイ氏(Scott Galloway)は、自身のYouTubeで次のように指摘しています。

「これはディール(契約)ではない。ただのプレスリリースだ

ギャロウェイ氏は、トランプ氏が過去にも中国、サウジアラビア、Appleとの間で「数千億ドルの投資がある」と発表してきたが、いずれも署名された契約書や履行された投資は確認されていないことを挙げ、今回も同様の“政治ショー”だと批判しています。

実際の合意内容は不透明

問題となっているのは、5500億ドルの投資が何に、いつ、どのように行われるのかが一切不明である点です。日本の交渉担当である赤沢大臣も「詳細については今後報告を受ける」と発言しており、具体的な合意内容が詰まっていないことを示しています。

Photo: Dan Scavino X

米ブルームバーグやウォールストリートジャーナルも、この投資発表を「non-binding(拘束力なし)」「provisional(仮の表明)」と報じており、株価上昇は単に関税引き下げへの反応であり、投資についてはほとんど市場に影響を与えていないと分析しています。

自動車市場の構造的不均衡も背景に

もうひとつ重要な論点は、日米の自動車市場における非対称性です。2024年時点で、日本が米国に輸出する自動車は年間約550億ドル規模ですが、米国から日本への輸出はわずか20億ドル程度。関税が下がったとしても、アメリカ製の車は日本市場で急に受け入れられることはないでしょう。

ギャロウェイ氏も、「日本人はアメリカ車を欲しがっていない。文化や品質の違いが大きい」と指摘しています。そして、「これまで0%の関税でアメリカ車を日本に輸出していた。それでも日本人はアメリカ車を買わなかった」と、ご尤もな発言も。

つまり、アメリカが譲歩して関税を下げても、米国産自動車の販売にはほとんど寄与しないという現実があります。

アメリカ車メーカーの業績はむしろ悪化

さらに、アメリカ国内の自動車産業も苦境に立たされています。ゼネラルモーターズ(GM)は、トランプ政権下で導入された関税政策によって10億ドル近い損失を被ったと報告しています。

テスラも2025年上半期に前年比で12%の売上減少を記録し、競合の中国・BYDとの競争激化が懸念されています。

ギャロウェイ氏はこの状況を、「1980年代の日本車の台頭と同じ構図。今回はEVで逆転されつつある」と分析しています。

そして「2025年は、アメリカ自動車産業の終わりの始まりの年として記憶されるだろう」と厳しい指摘もしました。

市場は「日本の勝利」と判断?

こうした背景を受けて、今回の合意について日本の証券市場は明確に“日本の勝利”と判断しています。関税引き下げを材料に日本の自動車株は急騰し、日経平均も年初来高値を更新。一方で、アメリカの自動車株はほぼ無反応、もしくは下落基調となりました。

投資会社Saxoのストラテジスト、Charu Chanana氏は「この投資話は政治的演出であり、取引材料とは見なされていない」と述べ、市場の評価のちぐはぐさを冷静に分析しています。

成功かどうかは、具体的な契約次第

確かに短期的には日本の輸出産業にはプラスですが、それが本当に持続可能な「成功」かどうかは疑わしいです。米など農産物の1兆円超の輸入条件が含まれていますし、その他にも要求が出てきそうです。

実際に何が合意されるのか、アメリカの具体的な意図を確認しなければ、私たちも政治ショーに踊らされる危険があります。

個人的に今回の合意は、日本政府は参院選に大敗し、落ち目の石破政権の成功を強調したかった。証券業界もこれを爆上げの機会として狙っていた、のではと思いました。

メディアは、合意についてピストン赤沢氏の手柄のように報じていますが、彼にそのようなスキルや経験があるとは思えませんでした。でも交渉から逃げ、陰で「なめられてたまるか!」と威勢を張る石破氏よりは、明らかに度胸はあったと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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