これは、アメリカ政府が2025年に発表した「MAHAレポート(Make Our Children Healthy Again)」をもとに、子どもたちの健康を取り巻く現代的なリスクを解き明かす【全5回シリーズ】の第2回です。
前回は、レポート全体の目的と背景、そしてアメリカの子どもたちが直面している健康危機の全体像についてお伝えしました。今回は、その中でも最も身近で見逃されやすいリスク──「超加工食品(UPF)」の実態に焦点を当て、日本の家庭にも潜む危険性を考察します。
超加工食品とは?その特徴と問題点
「超加工食品(Ultra-Processed Foods:UPF)」とは、食品科学・工業技術を活用して大量生産される食品で、家庭のキッチンでは再現できない加工工程や添加物が使われているのが特徴です。

MAHAレポートでは、これらが子どもの健康を静かに蝕む“社会的な構造リスク”として警告されています。
超加工食品の典型的な特徴
忙しい主婦の味方、とか単身者が簡単に食べられる、というニーズを満たす大量生産の加工食品の殆どが該当します。見た目も良く、手軽さ、満足感をアピールする商品ですが、その中身や商法が問題視されています。
特徴 | 具体例 |
---|---|
味が濃く中毒性がある | 濃厚チーズ味のスナック菓子、こってりソースの冷凍ハンバーグなど |
食感が極端に柔らかい | とろとろ親子丼、ふわふわ卵のオムライス、もちもち系スイーツ |
長期保存が可能 | 常温保存できる菓子パン、レトルトカレー、カップ麺 |
開封してすぐ食べられる | チルドの焼きそば、冷凍パスタ、パウチ入りスープ |
添加物が多用されている | 調味料(アミノ酸等)、乳化剤、pH調整剤、人工甘味料など |
これらは単に「便利」なだけではなく、企業のマーケティングや食品設計によって“習慣性”を狙って作られていることも、MAHAレポートで問題視されている点です。
アメリカでは、子どもの摂取カロリーの約70%がUPF由来という深刻な実態が明らかになっています。
なぜ子どもにとって危険なのか?
MAHAレポートでは、UPFがもたらすリスクとして以下の3点が強調されています。
1. 栄養の偏りと欠乏
UPFは糖質・脂質・塩分が多い一方で、ビタミンやミネラル、食物繊維が不足しており、免疫機能や成長発達に必要な栄養が満たされにくい傾向があります。
2. 食べすぎを引き起こす設計
UPFは満腹感を感じにくく、味や食感により報酬系(脳の欲求)を刺激して摂取量を増やすよう設計されているため、肥満のリスクが高まります。

3. 添加物の健康影響
赤色40号などの合成着色料がADHD傾向や行動異常に関係する可能性があるとの研究結果も。EUでは一部添加物に警告表示が義務付けられています(University of California, Berkeley)
日本の食卓も例外ではない
東京大学などの研究によれば、日本の子どもたちのエネルギー摂取の27〜44%がUPF由来。これはフランスやイタリアの2〜3倍に相当します。
- 朝食は菓子パン、昼食はコンビニおにぎりとスナック菓子
- 冷凍の唐揚げやレトルトカレーが食卓の定番に
- 給食でも冷凍加工品の導入が進む

こうした日常の食選びが、「栄養の空洞化」「満腹だけど栄養不足」という形で子どもの心身に影響を及ぼしているのです。できる限り、有機的で加工をしていない食品摂取を増やすべきだと思います。
子どもが受ける影響は大人以上に深刻
子どもは体のサイズが小さく代謝も早いため、少量の食品添加物でも影響を受けやすいとされます。さらに…
- 味覚や食習慣が形成される重要な時期に濃い味へ依存すると、将来の食の嗜好に悪影響
- 消化機能や腸内環境が未発達な段階でUPF中心の食事が続くと、肥満・糖尿病・集中力の低下などが懸念される
MAHAレポートでは、UPFと子どもの発達障害、うつ傾向、学業成績との関係についても、今後さらなる調査が必要としています。
忙しい家庭でもできる「小さな見直し」
すべてのUPFを避けるのは現実的ではありません。でも、以下の工夫でリスクを減らすことは可能です。
- 原材料表示をチェック:「◯◯エキス」「調味料(アミノ酸等)」が多い食品はなるべく控える
- “おやつ=甘いもの”の固定観念を変える:さつま芋、バナナ、ナッツ類など栄養のある選択肢を意識
- 冷凍食品も“素材系”を選ぶ:シンプルな冷凍野菜や無添加ミンチなどを活用(産地は要チェック)
- 手作りの味を週に1〜2回でも:ごはん、味噌汁、煮物のような“油の少ない和食”を食べる努力を

私は、テイクアウトのから揚げなど油で揚げた食物は基本的にUPFと考え、極力避けるようにしています。
まとめ:子どもの未来は「今日の食卓」から始まる
「子どもにはしっかり栄養を取らせたい」と思っていても、現代の食環境はその思いに逆行する要素であふれています。
MAHAレポートは、その背景にある商業主義や食品政策の問題を明らかにしましたが、まずは私たち家庭の中で「気づくこと」から始められます。経済的に難しい家庭もあると思いますが、UPFを減らす努力は必要です。
次回は、シリーズ第3回として、「身の回りの化学物質が子どもの発達に与える影響」についてご報告します。
最後までお読みいただきありがとうございました。
Source: The MAHA Report