ロシア政府が全国の多子家庭を対象に「農地を無料で提供する政策」を進めているのをご存じでしょうか?
しかもこの制度、実は2011年から本格運用されており、2025年現在も多くの家庭が活用中なんだそうです。
今、人口減少と地方の過疎化に悩むロシアにとって、この「無償農地支給」は国家的プロジェクトです。
どのような制度なのか?その中身と背景について、あまり知られていないロシアの土地政策を探ってみたいと思います。
制度の概要:対象は多子家庭、最大1,500㎡の土地がタダ!
ロシアで農地が無料提供される制度の正式名称は、連邦法 No.138-FZ(2011年施行)に基づく「多子家庭向け土地無償提供制度」です。
この制度の主なポイントは以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
対象 | 子ども3人以上のロシア国籍世帯(親権保持) |
面積 | 最大15ソトク(1,500㎡)まで |
地域 | 全国(都市圏は対象外、地方中心) |
用途 | 自宅建設、農業、家庭菜園など自由に設定可 |
取得回数 | 原則一度きり |
維持条件 | 一定期間内の開発・居住が必要(未使用なら返還) |
土地の提供地域は、モスクワやサンクトペテルブルクなどの都市圏では難しいものの、シベリアや極東、中央部の州では活発に行われています。
因みに所有により、土地税(固定資産税)が適用され、農地・住宅建設用地の場合:0.3%(評価額基準)、商用の場合は最大1.5%の課税があるそうです。それでもかなり安価ですね。

上のマップは、多子家庭向けの土地支援政策が展開される地域を示しています。緑色の地域は集中的な農業活動が可能な耕作可能地(Arable farming)で、多数の土地提供が行われています(出典:Agro‑climatic mapping for Siberia)
人口減少・少子化と地方の消滅危機への対策
この制度の背景には、ロシアが直面する2つの大きな課題があります。
- 深刻な少子化問題
ロシアの出生率は2024年時点で1.4~1.5の間で低迷、将来的な人口減少が確実視されています。多子家庭に対する支援は、国家存続の危機感に基づくものです。 - 地方の過疎化・労働力不足
若者の都市部流出により、多くの地方都市・村では住民が半減。耕作放棄地も増加し、農業の衰退も進んでいます。土地を無償提供することで、移住+定住+就農を促す狙いがあるのです。

ロシアの出生率は2015年が1.8近辺とのことです。パンデミックやウクライナ侵攻などにより、出生率の低下と人口流出が進んでいます。因みに人口は、約1億4,500人程度とのことです。
申請方法と現地の実情:書類1枚で取得も可能?
申請は比較的シンプルです。必要書類を揃えて地方自治体に提出することで、早ければ数週間で土地が割り当てられます。
必要な主な書類は以下の通り:
- 家族構成を示す戸籍証明書
- 親権証明書
- 現住所と希望地域を記した申請書
ただし、提供される土地はインフラ未整備のことも多く、水道・電気・道路がないケースも少なくないそうです。

また、一部自治体では無償提供ではなく「代替補償金(約38~62万円)」を選択できる制度があるそうです。この場合、土地の代わりに現金を貰うわけですが、この程度の金額だと生活費で直ぐに消えてしまいそうですね。
SNSでの反応を見ると、余り満足度は高くないのかもしれません。
- 「土地も使えないし、補償も少なすぎる」
- 「家すら建てられないのに、何が支援だ」
- 「戦争帰還兵には100万ルーブル(約182万円)なのに、我々はこの程度?」
- 「補償より、実際に住める土地+インフラ支援の方が現実的」
数十万世帯が利用、移住ブームには至らず
ロシア政府によると、これまでに数十万世帯が申請し、うち約40,000世帯が実際に土地を取得しました。
特に極東地域では「1ヘクタールの土地を誰でも無料で貰える」とした別制度(“極東ヘクタール”政策)も並行して展開され、極寒地でも“開拓者”が誕生しているのが現状です。
ただし、現地での定住率や建築率は低迷しており、土地だけ取得して開発されないままの“幽霊農地”も増加中とのことです。制度が完全に機能しているとは言い難く、実態は課題山積のようです(Radio Free Europe)。

タタルスタン共和国の首都カザン市では、これまでに約18,100世帯がリストに登録され、2024年までに8,437世帯(グラフのピンク)が土地を獲得し、登録世帯数は12年間で4.75倍以上に増加しており、制度が浸透しているとのことです。
ウクライナ戦争の影響:帰還兵や難民にも土地を…
2022年以降のウクライナ侵攻により、ロシア国内の土地政策にも変化が見られます。
- 戦地からの帰還兵への土地優遇
一部の州では、戦争に参加した兵士やその家族に対して、土地を優先的に提供する制度が導入されている - 戦争避難者の地方定住策
ウクライナ東部からの移民(ロシア側に協力した住民)に対して、農地や空き家を提供し、定住促進する政策も始まっている

これにより、もともとの多子家庭向け枠が圧迫される可能性もあり、「土地の政治利用」という批判も一部では高まっているようです。
ロシアの人口ピラミッドはまだ健全(日本のほうが深刻)
今回は少子化対策の一例として、ロシアの政策を調べてみました。
ロシアはこの他に経済的支援として、第2子以降の出産に対して一時金の支給制度もあります。2024年現在、約57万ルーブル(約100万円)支給され、その他、児童手当(約2.7万円/人)、優遇ローン(年利2~3%)など充実しているようです。

ロシアとの決定的な違いは、日本は65歳以上の高齢層の人口比が30%と高い点です。ロシアは17%で、更に若年層の比率も日本より高いです。
日本でもかなり前から、移住者に土地や住宅を無償提供したり、現金を支給する自治体があります。でも日本の場合は、高齢化による空き家・空地の増加とか、都市部への集中による限界集落問題がより深刻なんだと思います。
対策として聞こえてくるのは、例えば太陽光パネルの設置による自然破壊です。その場しのぎでなく、国や地方再生のための戦略を立て、日本人が幸せに暮らすための施策こそが必要と思いました。
最後までお読みいただきありがとうございました。