先日シンガポールに行って、その発展の速度に驚かされました。前回行ったのが約5年前でしたが、オーチャードやマリーナベイの辺りのアップデートは一目瞭然でした。
日本では失われた30年という言葉を日々耳にしますが、シンガポールは着実に進化・発展している国です。私は30年前にも同国を訪れておりますが、その時の記憶は「街が綺麗」と「家電や時計の安売り市場」のみで、他に印象に残るものはありませんでした。
今やユニバーサルスタジオやカジノで賑わうセントーサ島にも行きましたが、ホテルが数件と小さな人工ビーチがある程度と記憶しています。
彼らはこの30年間にどうやって今日の発展を築いたのでしょうか、探ってみたいと思います。
出生率0.96──東南アジアで最も少子化が進む国の現実
シンガポールは経済成長の成功例として世界的に注目されてきましたが、その陰で進行しているのが深刻な少子化です。
1995年時点では合計特殊出生率(TFR)は約1.73と、すでに人口置換水準(2.1)を下回っていましたが、2024年には過去最低の0.96を記録しました。これは東南アジアで最も低い水準です。

背景には、教育とキャリア志向の高まり、結婚・出産の晩婚化、高額な住宅費や育児コストなどが複雑に絡み合っています。
政府は出産一時金「ベビーボーナス」や育児支援策を導入していますが、いずれも限定的な効果にとどまっています。
人口の3割が外国人──労働力と多様性のジレンマ
シンガポールの現在の人口は約608万人。そのうち、**外国人は約150万人(約26〜30%)**を占めます。少子化による労働力不足を補う形で、1990年代から外国人受け入れ政策が本格化しました。
建設・運輸・介護・清掃といった現場労働にはバングラデシュ、インドネシア、フィリピンなどからの労働者が不可欠です。一方、IT・金融などの分野では欧米や中国、インドからの高度人材が多数活躍しています。

ただし、こうした「外国人依存」は社会統合や雇用競争といった面で課題も抱えています。シンガポール人の一部には「職を奪われている」という不満もあり、多民族国家としての共生の難しさが浮き彫りになっています。
地政学的優位と経済政策の勝利:一人当たりGDPは3倍に
では、なぜシンガポールはこれほどの成長を遂げることができたのでしょうか。
一つには地政学的な優位性があります。東西貿易の要衝であるマラッカ海峡に位置し、港湾都市としての強みを最大限に活かしてきました。
もう一つの理由は、建国の父リー・クアンユー元首相をはじめとする指導者たちによる、計画的かつ効率的な国家運営です。
1965年の独立以降、汚職撲滅、教育の英語化、外資誘致、インフラ整備を徹底。1970年代には多くの市民が木造住宅に住み、水道も電気も整っていない時代から、わずか50年で世界有数の先進都市へと変貌しました。
指標 | 1995年 | 2025年 |
---|---|---|
総人口 | 約300万人 | 約608万人 |
人口増加率(年率) | 約2.5% | 約0.61% |
合計特殊出生率(TFR) | 約1.73 | 約0.96 |
高齢者比率(65歳以上) | 約7.3% | 約18.4% |
GDP(名目) | 約12.7兆円 | 約74.3兆円 |
GDP成長率(年率) | 約7.2% | 約1.08% |
一人当たりGDP(名目) | 約420万円 | 約1,357万円 |
外国人比率 | 約15% | 約30% |
シンガポールの一人当たりGDPは、30年で約3倍の1,375万円に成長しました。日本は1995年に620万円だったのが、2024年に約475万円に減少しています。
この先の課題と不安──“効率国家”のリスクとは
とはいえ、今のシンガポールが安泰というわけではありません。
まず、高齢化の進行です。65歳以上の高齢者比率は1995年の7.3%から、2023年には18.4%まで増加。年金制度(CPF)は自己積立型であるため、長寿化と共に老後の不安が増しています。

在シンガポールの日本人の方に聞いたところ、外国籍の人は65歳になったら国外退去させられる可能性が高いそうです。現地に数億の預金や資産があっても関係なしだそうです😨。
次に、中間層の生活コスト負担です。住宅価格の上昇、教育費、物価の高騰は、若い世代にとって将来設計を難しくしています。これは出生率の低迷に直結していると思います。
そして、アイデンティティの揺らぎ。国民の約30%が外国籍という現状では、シンガポール人としての意識や文化継承にも課題が残ります。

確かに多様性のある社会は素晴らしいですが、職種と人種で分断されているのではと感じる場面も沢山目にしました(例:建設現場はバングラデシュ人、家事手伝いはインドネシア人)。
高学歴、キャリア志向が少子化の促進要因?
経済成長に成功した優秀な国ですが、やはり出生率の低下が最大の問題だと思います。
シンガポールの子育て支援制度はかなり充実しています。ベビーボーナスは、第1子・第2子が生まれたら各165万円、第3子は240万円が支給されます。その他、育児費用や住居優遇などが充実しています。
専門家は、それでも子どもが生まれないのは、高学歴化、キャリア志向、価値観の変化が背景にあると分析をしています。
現地の友人から面白い話を聞きました。彼が5歳の約50年前、木造のバラック小屋に一家9人で住んでいたそうです。電気、ガス、水道などのインフラはなく、熱源は石油のみだったそうです。
この当時、1970年のシンガポールの出生率は、3.06だったそうです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
Source: Statistics Singapore