アメリカの選挙はなぜこんなにお金がかかる?若者が立候補できない理由と制度の壁

アメリカの選挙と金問題 政治・ビジネス

アメリカの政治は劇場型の典型で、候補者が敵対心剝き出しで闘う姿が印象的です。二大政党、異なる人種や背景を持つ国民が投票するため、支持と不支持の対比が特徴的でもあります。

アメリカの選挙には毎回莫大な費用がかかり、それが原因で多くの優秀な若者たちが政治家になる道を断たれているという現実があります。つまり、選挙自体が巨大ビジネスであり、メディアを始めとしてそれに依存する団体・個人がいかに多いかということです。

この記事では、アメリカの選挙制度の仕組みと、選挙にかかる費用の現実、そして若者がなぜ候補者になれないのかを探っていきたいと思います。

アメリカの選挙制度とは?

まずは、アメリカの選挙制度について簡単に整理してみましょう。

アメリカでは、連邦、州、地方と三層にわたって定期的に選挙が行われています。4年に1度の大統領選挙は最も注目を集める選挙で、有権者は全米規模で投票を行います。

上院議員(任期6年)は各州に2人ずつ、下院議員(任期2年)は人口比例で435人が選ばれます。州レベルでは、州知事や州議会議員、市長、教育委員など、数多くの公職が選挙で選ばれます。

選挙の種類対象頻度
大統領選挙大統領・副大統領4年ごと
上院議員選100人(各州2人)6年任期/2年ごとに1/3改選
下院議員選435人(人口比例)2年ごとに全議席
州知事選各州の行政長州ごとに異なる(2~4年)
地方選挙州議会・市長・教育委員など地域ごとに随時実施

これらの選挙が毎年どこかで実施されているため、アメリカは常に「選挙中」といっても過言ではありません。

なぜアメリカの選挙には莫大な費用がかかるのか?

こうした頻繁な選挙において、候補者たちは有権者に自分の名前や政策を知ってもらうために、大量の広告やイベント、メディア露出を行います。そのために必要なのが、巨額の選挙資金です。

2020年のアメリカ連邦選挙の費用総額は約140億ドル(約2兆円)に達しました。これは前回2016年のほぼ2倍にあたります。そして2024年の選挙では、さらに増えて約159億ドル(約2.3兆円)になると予想されています。この資金の多くはテレビ広告、デジタル広告、コンサルティング、スタッフ給与、イベント開催費などに使われています。

なぜここまで選挙にお金がかかるのか。それはアメリカの選挙が広告・マーケティングに依存しているからです。たとえば、大統領候補が勝利を狙うには、10以上の激戦州(スイングステート)で有権者の関心を引きつけなければなりません。

そのためには、地元メディアへの広告出稿、ターゲット広告の運用、インフルエンサーの活用など、積極的な広報戦略が求められます。これらを全米規模で展開するには、企業のようなマーケティング予算が必要なのです。

若者が候補者になれない現実

ここで大きな問題となるのが、若者や一般市民が候補者になろうとする場合です。アメリカでは、下院選挙に出馬するにも平均で約200〜300万ドル、日本円にして数億円の費用がかかると言われています。上院選や州知事選ではさらに多額です。

これほどの金額を集めるには、大企業や富裕層からの大口献金が不可欠ですが、若者や新規参入者はそのような支援ネットワークを持っていないのが現実です。

クラウドファンディングなど新たな手法もありますが、そんなレベルの金額ではないのです。あれだけ優秀な人材が集まる国でも、大統領選の候補者は80歳前後ということがすべてを物語っている気がします。

なぜ選挙制度は改革されないのか?

では、制度を改革すればよいのでは?と思われるかもしれません。しかしその壁も厚いのです。まず、アメリカでは「Citizens United」という2010年の最高裁判決によって、企業や団体が無制限に政治資金を拠出できるようになりました。

これにより、億万長者に支援されるスーパーパック(Super PAC)と呼ばれる団体が候補者を支援し、表向きは「独立」としながら実質的な選挙運動を展開できます。こうした団体には、誰がいくら出資したかが公開されない場合もあり、いわゆる「ダークマネー」が政治を左右しているのです。

2024年の大統領選でイーロン・マスク氏が資金提供した団体は、選挙キャンペーンの中核業務、たとえば有権者への働きかけ活動などを実質的に引き受けました。

この年のダークマネーは総額10億ドル(約1400億円)を超え、そのうち少なくとも1億8200万ドルは、二大政党の議会選挙を主導するキャンペーンに密接に関係する団体を通じて流れたことが確認されています(Citizens United Explained)。

また、選挙制度の改革には議会の同意が必要ですが、現行制度の恩恵を受けている現職議員が、自らの権益を削る改革に乗り出すとは考えにくいのが現実です。政治とお金の関係は、単なる腐敗ではなく、制度として正当化されてしまっているのです。日本もまったく同じ構造であることがわかります。

少しずつ始まる変化の兆し

それでも希望がないわけではありません。ニューヨーク市やアリゾナ州などでは、公的選挙資金制度(クリーン選挙制度)を導入し、小口献金を拡大するための補助金制度が始まっています。

Photo: Ocasio-Cortez Instagram

また、SNSを活用して少額の寄付を募る草の根キャンペーンも増えており、オカシオ=コルテス議員などはその成功例といえます。若者たちも、かつてより多様な方法で政治参加を模索しています。

お金の壁を崩すには、私たちの関心が必要

アメリカの選挙は、「民主主義の最先端」のように見えて、実は非常に排他的な構造を抱えています。出馬するにはお金が必要⇒若者は立候補できない⇒若者は投票に行かない、という構図となり、さらに高齢の既得権益層による支配を強化してしまっています。

2024年の大統領選の場合、18歳~24歳の投票率は47.7%で、65歳以上は74.7%でしたUSA Facts)。

Data: USA Facts

これは日本もまったく同じ傾向であり、若い世代の政治参加により、膠着した社会システムを改革するしかありません。近年の自公政治に対する不満の高まりは必然であり、アメリカほど選挙にお金を必要としない日本にはチャンスです。

私たちにできることは、「日本は本来どうあるべきか?」という問いを持ち、自分の考えに近い政党や候補者に投票することです。

自分の損得のためではなく、公平で平等な社会を創ろうという志を持つ政治家、国民のために働く人を選べば、我々の暮らしは今より良くなること間違いありません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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