いまアメリカでは、「家も車も家電も高すぎる」という不満が、左右を問わず広がっています。食品やガソリンといった日用品の値上がりに加え、新車の平均価格は4万ドル(約600万円)を超え、一般家庭では購入が難しくなっています。
家賃や住宅価格も歴史的な水準にあり、若い世代が資産を築けないことが深刻な社会問題になっています。
アメリカの高コスト生活に対する疑問が背景
最新の世論調査では、トランプ大統領の生活費・物価対策について、承認率はおおよそ26~34%と非常に低く、批判率が60%以上にのぼっています。
こうした状況の中で、SNSで急速に注目を集めているのが“MALA(Make American Living Affordable – アメリカ人の生活を廉価に)構想”です。

これは、さまざまな規制を見直すことで、アメリカの生活費を「最大40%下げられる」という大胆な仮説を提示したものです。
極端に聞こえますが、多くの人が関心を寄せているのは、アメリカの生活費高騰が単純なインフレではなく、もっと深い社会構造問題に根ざしているという指摘が含まれているからです。
MALA構想とは何か──特許と規制の“ねじれ”に注目
MALAが着目しているのは、「特許が切れた製品でも、現代の規制のせいで再生産できない」という点です。通常、特許は期間が終われば誰でも再生産でき、価格が下がるのが自然な流れです。電卓や家電製品の一部は、まさにその仕組みのおかげで安くなってきました。
ところが自動車や住宅、主要家電となると事情は異なります。1970年代以降に制定された排ガス規制、安全基準、省エネルールなどが積み重なり、「昔は安く作れたもの」をそのまま再生産することができません。

MALAは、この特許は切れているのに作れないという状態を問題視し、それこそがアメリカ生活コストを高くしている主要因だと指摘します。
もちろん、自動車の安全性や環境基準が向上してきたのは大きな成果です。しかし、規制が増えれば増えるほど、旧型の低コスト製品が消え、家庭が選べる価格帯の幅も狭くなるのも事実です。
なぜ規制が物価を押し上げるのか
アメリカでは、1970年代以降に環境行政や安全行政が急速に発展しました。これにより、大気汚染の改善や事故死の減少など、社会的なメリットが大きかった一方、企業は新たな基準に合わせた設計変更や認証取得を余儀なくされました。
たとえば、車をひとつ再設計するだけでも、衝突試験・排ガス試験・燃費測定など、多くの工程が必要になります。家電も同じで、省エネ基準を満たすための技術投資や素材コストが積み上がります。

結果として、規制を満たした最新モデルしか市場に出せず、価格が下がりにくい市場構造が生まれます。
MALAが提示するのは、「規制のすべてが悪いわけではないが、特許制度による“価格低下の恩恵”が失われているのではないか」という疑問です。この視点は、通常のインフレ議論ではあまり語られないポイントで、政策議論としても新しい切り口です。
政府効率省(DOGE)とMALA──現実と理想のギャップ
一部のSNS投稿では、MALAを政府機関が採用したかのように語るものもありますが、現時点でMALAは正式な政策ではありません。むしろ、これは国民側から出てきた“生活費改善のための提案”に近いものです。
話題の背景には、新設された政府効率省(DOGE)の存在があります。DOGEは実在の組織で、政府の無駄な契約やシステムを削減して効率化を目指すという大統領令のもとで作られました。実業家のイーロン・マスク氏が初代トップに就任したことでも話題になりましたね。

しかし、実際には契約の見直しによる混乱や、政府サービスの遅延が報じられることもあり、「理想の効率化」と「現実の行政運営」のギャップが浮かび上がっています。
MALA構想は、このDOGEの活動とは直接関係ありませんが、「生活費を下げるには政府側の構造改革が必要だ」という世論の高まりと重なり、注目される形になっています。
AI時代の“政策ポピュリズム”としてのMALA
興味深いのは、MALAがAIツールの試算や分析から広がったという点です。SNSでは、AIが提示した「生活費40%削減」という数字がひとり歩きし、“AIが暴いた真実”のように扱われる場面もあります。
AIは膨大な情報を組み合わせ、最適化された仮説を出すことができますが、その試算は前提条件に大きく依存します。MALAの数値も、規制撤廃により低価格モデルが大量に復活するという前提のうえで成り立つもので、実際の社会で同じ効果が出るかは別問題です。
とはいえ、AIが政策議論に影響を与え、国民の関心を動かすという現象は、すでに現実として起きています。これはアメリカに限らず、世界各国の政治においても避けられない流れです。
欧州でも広がる「生活を守るための規制見直し」の動き
EUでは長年、環境と国際協調を優先した政策が積み重なってきましたが、その負担が家庭と農家に跳ね返りました。
電気、燃料、食品、税金の全てが上昇し、2023〜24年には欧州各国で大規模な抗議デモが頻発。ついにEUの象徴「欧州グリーンディールは生活を苦しめるお荷物だ」という批判が一般市民から噴き出す結果となりました。

この結果、EUは複数の環境規制や企業向け義務を“静かに後退”させています。目的は環境対策を放棄することではなく、「生活の土台が崩れる政策は受け入れられない」という現実を無視できなくなったからです。
「抽象的な国際目標や大義名分より、まず自分たちの生活を守ってほしい」という、ごく当たり前の国民の声です。国連やWHOなどの(謎の)国際機関が主導してきた活動や方針への反旗、という見方とも考えられます。
日本でも、食品や住宅価格が上昇し、自動車や家電製品の値上げが庶民の生活を直撃しています。規制導入の背景には色々ありますが、それらを公平に評価する機能はありませんし、何のためにやっているのか曖昧であると感じています。
最近、民主主義は平等であるという前提が、世界的な政治不信と共に壊れ続けていると感じることが多くなりました。時代の変化と共にシステムのアップデートが必要であるのと同じく、国際社会や国のシステムも更新が必要だとつくづく思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
Source: Roleigh Martin’s post on X
