出版ビジネスではタイトルを見ただけで「読みたい!」と思わせることが大事です。特に実用書などはタイトルのキャッチコピー化が進んでいます。『その子どもはなぜ、おかゆの中で煮えているのか』もその強烈に個性的なタイトルに惹かれて手に取った作品です。
欧州を移動する生活と苦悩
アグライア・ヴェテラニー(1962–2002)は、ルーマニアのブカレストでサーカス団の家庭に生まれ、幼少期はヨーロッパ各地を転々とした後、スイスに定住しました。この移動生活の経験が彼女の作品に大きな影響を与えています。


彼女は詩やエッセイ、短編小説も執筆し、亡命や家族、心理的苦悩といったテーマを探求しました。また、演劇やパフォーマンス・アートにも関わり、さまざまなアーティストとコラボレーションを行ったそうです。彼女はうつ病に苦しみ、2002年に39歳で自ら命を絶ちました。
代表作・その子どもはなぜ、おかゆの中で煮えているのか
この作品は1999年にドイツ語で出版され、2024年に日本語版が販売されています。この個性的なタイトルは、大人に振り回された自身の心境を表したものです。この「おかゆ」はPolenta(トウモロコシを煮詰めた主食)が原語です。
本作は自伝的要素を持つ小説で、サーカス団の家庭で育つ子どもの視点から、移民の孤独や不安を詩的で断片的な文体で描いています。15歳位まで満足に学校に行けなかったので、読み書きに苦労があったようです。その素朴で飾らない文体・表現に惹きつけられます。
もうひとつ特徴的なのは、固有名詞は殆ど使われず、ストーリーは「わたし」を中心に展開され「お母さん」、「父さん」、「姉さん」が登場します。大人との距離感、間合いにも影響があったのだと感じます。
この作品はドイツとスイス現代文学において重要な位置を占め、高く評価されました。ハンガリーで2012年に映画化もされているそうです。
![]() | その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか / アグラヤ・ヴェテラニー 【本】 価格:2750円 |
