なぜ品種改良された野菜や果物は甘い?健康への影響と注意点

シャインマスカット 食事と健康

スーパーに並ぶ野菜や果物は見た目が美しく、しかも年中手に入るようになりました。特にトマトやブドウ、イチゴのように「糖度」を売りにした商品は人気が高く、昔の酸味や青臭さを感じさせない品種が主流になっています。

確かに美味しさや食べやすさは格段に向上しましたが、身体への影響やリスクはどうなのか?という疑問を抱いてきました。例えば、夏野菜は身体を冷やす効果があり、寒い時期に食べるものではありません。冬にトマトを店頭で見かける度に思います。

甘さを追求する品種改良も盛んですが、本来その品種の持つ栄養価をバランスを犠牲にしているのではないかとも感じます。とりわけ、過度の糖分の摂取が増えれば血糖や肝臓への負担につながる可能性もあります。

これら品種改良が加速する背景には、農産物ビジネスの熾烈な競争があります。人の健康に及ぼす影響を含め、色々と探ってみたいと思います。

世界の品種改良・積極派と慎重派

品種改良に積極的な国は、アメリカ、オランダ、イスラエル、日本、中国などです。

米国農務省は2020年に「SECUREルール」を施行(規制緩和)し、従来の交配で起こりうる変化は規制対象外としました(USDA, 2020)。その結果、糖度や日持ちを操作した新しい果物・野菜が市場に出やすくなったとのことです。

英国も2023年に「Precision Breeding Act」を制定し、ゲノム編集作物を遺伝子組換えとは区別して扱う方針を示しました(UK Government, 2023)。

中国も2022年にガイドラインを公表し、ゲノム編集作物の商業化に踏み出しました(China MOA, 2022)。

一方、フランスやドイツを含むEUは「予防原則」に基づき慎重です。欧州司法裁判所は2018年の判決で、ゲノム編集も原則GMOに分類すると判断しました(CJEU, 2018)。

欧州食品安全機関も「消費者の選択権を担保するため表示・追跡が不可欠」としています(EFSA, 2021)。

日本の立ち位置

日本では2019年に厚生労働省および消費者庁が、外来遺伝子を含まないゲノム編集による変異は、自然突発・従来育種と同等と位置づけました。したがって、GMO(遺伝子組換え食品)として扱わないという判断につながっています(USDA報告)。

世界初の「高GABAトマト」がその象徴です。国内では遺伝子組換え作物の商業栽培はほとんどないものの、輸入依存度が高い点が特徴的です。

EUが慎重なのは「不確実なら規制強化」という予防原則に加え、表示義務が制度化されているからです。農産物に対するEUの方針は、比較的見習うべきが多い気がします。

甘さを増加させる技術

野菜や果物の「甘さ」を高める方法は大きく三つに分けられます。

第一に、育種・交配による選抜です。
糖度の高い系統を繰り返し掛け合わせることで、従来より甘い品種を生み出す方法です。日本のトマト「フルティカ」や「アイコ」、イチゴ「とちおとめ」などは代表例です。また、クエン酸など酸味を抑える遺伝子を持つ株を選抜することで、相対的に「より甘く感じる」品種を作り出すことも行われています。

第二に、栽培制御(特に水分や塩分のストレス利用)です。
トマトでの研究では、土壌中の水分を制限したり塩分を加えたりするストレスが、果実内にブドウ糖・果糖などの糖や有機酸を増加させ、結果として糖度を高めることが示されています(ResearchGate)

他の研究でも、ミニトマトでは土壌水分を下げるほど果実の糖含量が上昇する傾向が確認されています(J-STAGE)。イタリアの処理トマトの野外栽培においても、節水灌漑(かんがい)によりグルコースや可溶性固形分(SSC)が増加した成果が報告されています(MDPI)。

第三に、遺伝子レベルでの改良です。
近年はゲノム編集技術を用い、糖輸送に関わる遺伝子(SWEETファミリーなど)や酸代謝酵素の働きを調整する研究が進められています。酸味を弱めると甘さが際立つため、遺伝子操作で酸度を下げるアプローチも注目されています。また、バナナやリンゴではデンプンを糖に変える酵素の働きを強め、熟成過程で甘さを増すような品種改良が行われています。

ユニフォームライピングは、果実の色を均一にする目的で導入されましたが、光合成能力が抑制され、むしろ糖度や香気成分が低下する副作用があるそうです。真っ赤で甘いトマトという望みを実現するのが、今の改良技術なんですね。

栄養の空洞化と健康リスク

収穫量と外観を重視した改良の結果、ミネラルやビタミンが低下する「希釈効果」が報告されています。米国の調査では、1950年に比べ1999年の野菜や果物は平均して栄養素濃度が減少していたとされています(Davis et al., 2004)。

また果糖は血糖値を直接上げにくい一方、肝臓で中性脂肪に変換されやすく、脂肪肝や肥満リスクを高めるとWHOは指摘しています。

一方、果物そのものは食物繊維や抗酸化物質を含むため、全体の摂取量が多い場合には非アルコール性脂肪性肝リスクが下がるという報告もあります(Nutrients, 2020)。

果物が甘くなる背景には、お菓子類とも競争もあると思います。現代人の糖分摂取の機会は益々増え、知らず知らずのうちに血糖スパイクも増えていることでしょう。

原種が作りにくい時代背景

日本では2020年の種苗法改正により、登録品種の自家採種が原則禁止となりました。農林水産省は「海外流出防止と育種権保護」が目的と説明しています。

しかし、農家が自家採種できる品種が限られることで、在来種や固定種の利用は相対的に難しくなりました。

国際的にもバイエルやコルテバなど数社が世界の種子市場を寡占しており、消費者の手に届く選択肢は「見栄えが良く甘い品種」に偏りつつあります。

スーパーでよく見かける4つの野菜・果物と注意点

特に品種改良の影響度が高く、日常的に食べる頻度が多いものを見てみましょう。

  • トマト
    高糖度化が進み、食べやすい反面、香気成分やリコピンなど抗酸化物質が減った品種も報告されています(Science, 2018)。血糖値の上昇や糖分過多に注意が必要な場合もあります。
  • バナナ
    改良により糖分比率が高く、熟度が上がるとグリセミック指数(GI値)が急上昇します。食べやすさの裏で、果糖負荷が増えやすい点が懸念されます。
  • トウモロコシ
    国産スイートコーンは甘味強化の改良が進み、糖度が20度近くの高めの品種もあります。輸入トウモロコシの多くは遺伝子組換えで、高フルクトースコーンシロップとして清涼飲料などに利用され、肥満や脂肪肝と関連しています(糖尿病ネットワーク)。
  • リンゴ
    「ふじ」や「シナノスイート」など高糖度品種が主流です。酸味や渋みをもたらすポリフェノールが減少傾向にあり、ジュース加工では食物繊維も失われ糖負荷が高まります。

見た目が良く売れればいいのか?

昔のトマトはヘタの周辺が青く、固く美味しくないことが多かったです。塩やはちみつをかけて食べた記憶があります。

しかし、甘くなくても土の香りがして、野菜を食べているんだという実感があったような気がします。また、真夏の暑い時期のトマトは完熟で、他の季節のものに比べ圧倒的に美味しかったのを覚えています。

今は実全体が赤くなり見た目は格段に良くなりましたが、確かに本来の風味や香りが完全になくなりました。料理でトマトを沢山使うソースなど作ったとき、暫く手にトマトの香りが付いたのを覚えています。

品種改良は野菜や果物の商品化に貢献してきましたが、本来持っている栄養価や効果が薄れていくのでしょう。葉物野菜でも全体的に薄味になり、品種ごとの味の個性が薄まっていると感じます。

いい種が入手できるなら、家庭菜園で野菜本来の味や香りを追求してみたいと思いました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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