2025年5月、トランプ前大統領がTruth Socialに投稿したある発言が注目を集めました。そこには、アメリカ音楽界を代表するアーティスト、ブルース・スプリングスティーン、ビヨンセ、U2のボノを名指しで批判する内容が書かれていました。投稿は次のようなものです:
”彼らはみな同じだ。過大評価されていて、口ばかりで、この国に非常に不忠なことで金持ちになった。ブルース、ビヨンセ、ボノ─政治の才能はなく、分断を招くだけだ。”
これは単なる有名人への批判を超えた、“アメリカ文化戦争”の一断面といえる出来事です。
この記事では、なぜトランプ氏が音楽界のスターたちを激しく攻撃するのか、その背景にある政治的・文化的構図を探ります。
トランプ氏の“敵”は文化エリート
トランプ氏が政界に登場して以降、一貫して標的にしてきたのが「リベラルな文化エリート層」です。ハリウッド、アカデミア、ニュースメディア、そして音楽界。とりわけブルース・スプリングスティーンはその代表格として、過去から現在に至るまで強く批判されています。

ブルースは1984年の名曲「Born in the U.S.A.」をはじめとして、労働者階級の声を代弁する社会派ロッカー。トランプ氏の大統領就任後も、「トランプはアメリカの価値観を歪める存在だ」と繰り返し発言してきました。
そして5月14日、彼はイギリス・マンチェスターのライブでファンに語ったのです。
「アメリカは現在、腐敗し、無能で、反逆的な政権の手中にある!」
Bruce Springsteen has increasingly sounded off about Donald J. Trump over time. On Wednesday in Manchester, England, on the opening night of his European tour with his E Street Band, Springsteen let loose:
— Variety (@Variety) May 14, 2025
"In my home, the America I love, the America I’ve written about, that has… pic.twitter.com/Ce8nKWej8x
この発言を受けて、トランプ氏はTruth Socialで怒りの反撃をし、ブルースのことを「干からびたプルーン」と反撃しました(笑)。
ビヨンセやボノも“標的”に
ブルースは、2024年の大統領選で民主党候補のカマラ・ハリス氏の選挙キャンペーンに協力しました。それに対しトランプ氏は、「カマラ・ハリスはブルース・スプリングスティーンのあの酷い演奏に幾ら払ったのか?」と反撃し、選挙違反として大規模な調査をほのめかしました。

ブルースだけではありません。今回の投稿では、歌手のビヨンセとU2のボノ、司会者のオプラ・ウィンフリーにも同様の疑いをかけています。
これには多くのファンや文化人が衝撃を受けましたが、背景には彼らの“政治的姿勢”があります。
- ビヨンセは故郷ヒューストンでのハリス候補の選挙集会に登壇。自身の楽曲「Freedom」をハリス候補の公式キャンペーンソングとして使用することを許可
- U2のボーカリストであるボノも、ハリス候補の選挙イベントに参加し支援を表明
彼らは単なるポップスターではなく、“社会的影響力を持つ発言者”として行動してきました。それが、保守派──とりわけトランプ氏にとって「目障りな存在」だったのでしょう。
「文化戦争」としての音楽批判
トランプ氏のこうした発言は偶然の産物ではなく、「文化戦争(Culture War)」の戦術の一部です。これは、保守派とリベラル派の間で、価値観やアイデンティティをめぐって繰り広げられる象徴的な闘いです。
音楽や映画などのポップカルチャーは、リベラル的価値観が色濃く反映されることが多く、保守層から「自分たちの声が無視されている」と感じられる分野でもあります。

そのため、トランプ氏は文化人やアーティストを「過激で左傾化したエリート」と位置づけ、政治的ライバルの象徴として批判の対象にしているのです。
これは保守層、特にレッドステート(共和党支持州)の支持者に向けて、「自分たちの価値を代弁する候補」という立場を強調する戦術でもあります。
ブルーステート vs レッドステートという分断
背景には、アメリカ社会の深刻な分断があります。ブルーステート(リベラル、都市部)とレッドステート(保守的、地方部)という対立構図は、単なる選挙地図を超え、文化的な「住み分け」にも発展しています。

ブルース・スプリングスティーンの音楽はニュージャージーの労働者魂に根ざしつつも、価値観としてはブルーステート的。「移民」「LGBTQ+」「反戦」などのテーマを扱っており、レッドステートの価値観とはしばしば衝突します。
こうした背景から、ブルースらの発言や活動は、「左派文化の象徴」としてトランプ支持層にとっては“敵”に見えてしまうのです。
それでもアーティストは歌う
音楽は自由の象徴です。そしてブルースも、ビヨンセも、ボノも、自らの信じる社会と価値観を表現し続けています。
トランプ氏の攻撃によって、彼らの音楽が封じられることはありません。むしろ「そこまで言っていいの?」と心配になるほど、徹底的に言い合う文化・土壌がアメリカにはあります(素晴らしい!)。
🚨| The president of the American Federation of Musicians issued a statement in response to Trump!
— Taylor Swift Updates (@TSUpdating) May 16, 2025
“The American Federation of Musicians will not remain silent as two of our members — Bruce Springsteen and Taylor Swift — are singled out and personally attacked by the President… pic.twitter.com/fkfT8UH5IJ
トランプ氏の投稿は確かに話題を呼びましたが、その背後には、音楽が持つ力と、それを恐れる人たちの存在があります。そして国民・リスナーには、それぞれのアーティストのメッセージをどう受け止めるか、自由な選択があるのです。
音楽と政治の距離が近く、表現の自由のあるアメリカを羨ましく思います。私が日本の音楽をあまり聴かないのは、ラブソングだけだからです。メディアが表現の自由を規制しているので、政治や社会問題の歌など誰も歌えません。
福島の原発事故の直後に、斉藤和義が自身の曲をアレンジして「ずっとウソだった」と歌い、大騒ぎになったのを思い出しました。
勇気のある行動に拍手です!最後までお読みいただきありがとうございました。